2009年7月5日 星期日

「司馬遼太郎の坂の上の雲を読む」をよむ

NHKで大河ドラマに「坂の上の雲」を放映するというので、入院の機会に読み直した。三度目である。しかし最近それは大河ドラマではなくてスペシアルドラマであることがわかった。今年11月20日から年末にかけて計5回、更に2010年と2011年にまたそれぞれ4回、三年がかりで(合計13回)放映するという。
こんな題材で司馬遼太郎さんの伝えようとしていることを表現できるかと疑問に思っていた矢先、四月はじめの「アジアの一等国」ドラマでとんでもない偏向報道を見せつけられて、ますますその感を深くした。
そしてタイミングよく「坂の上の雲を読む」という本が出版された。’09年4月の刊行である。著者は谷沢永一、関西大學名誉教授、「宮本武蔵の読み方」などの本がある。
この本で教えられたことがたくさんある。僕たち凡人は小説の筋を追うのに一生懸命で往々著者の意図するところを見逃してしまう。それを谷沢氏はハイライトを再現して見せてくれる。おかげで「坂の上の雲」に対する認識が深まった。同時に大河ドラマでは司馬さんの意図するところは十分に表現できないだろうと感じた。この小説には明治の社会、国家の運営、民間の思想(とくにメディアのあり方)、軍部に対する批判が随所に出てくる。それも悪意の中傷ではなく過去の欠陥から将来の反省への手がかりを伝えたかった部分が多々あるが、NHKの偏向報道性格からすればどうもまた日本が侵略をした帝国主義者だったと自虐的に表現されそうである。、そもそも、司馬さん自身が、この小説は映画にしないでくれと望んでいたというから、このことを予期してそういう意向を伝えたのかも知れない。
「坂の上の雲」は大部分が日露戦争をテーマにしているが背景は日本近代史そのものである。長くなるので一々引用しないが、おもな項目を次に並べる。興味ある人は大河スペシヤルが放映される前にこの本を読むことをお勧めする。もっと興味がある人は「坂の上の雲」の原作を合わせ読むともっとよいだろう。

・ 日露戦争の原因は満州と朝鮮である
・ 日本は日露戦争ではじめて「近代」の恐ろしさに接した
・ 日露戦争は日本が勝ったのではなくロシアが負けてくれた
・ 日露戦争に勝ったことで日本軍部がつけあがった
・ 日露戦争に勝ったことで思い上がった日本軍部と国民
・ 情報を集めるだけで活用しなかった日本軍部の体質
・ 陸軍大學のエリートが国を誤った官僚軍人の温床
・ 陸大の成績の順位が昇進の標準になった(後に東大法学部の順位が官僚昇進の基準になる)

など。
私なりの乏しい知識では未だに分からないことが一つある。日本軍が開発した三八式小銃は精度がよいという評判だったが日露戦争には間に遭わず、日露戦争はほとんど三○式小銃で戦った。精度がよかったのは、一本一本が職人の名人芸にたよっていたからで、狙撃用には実際にテストして性能のよいものを選んだという。問題はその後30年間改良を加えるでもなく後の太平洋戦争でもそれを標準装備として使っていた点である。そして軍部は、特に陸軍は精神で勝てると思い、実際にもその方向に進んでいく。

冒頭に書いたように、私が「坂の上の雲」を読むのはこれで三度目である。こんなに「真面目に」読んだ小説は他にない。最初は日本海海戦の経過を追うために読み、二度目でようやく旅順戦と奉天戦の実態を知り、三度目で司馬さんが伝えたかった真意が漸く少し分かった。だから谷沢さんの言う「日本が勝ったのではなくロシアが負けてくれたのだ」がよく分かった。われわれも含めて長い間日本軍部はこれを大勝利として国民に教え、結果として国を誤ったとしか言いようがない。本当に勝ったのは日本海海戦だけだったのに。
ここまで書いて、実際には相手が不手際で負けてくれたのに、勝ったつもりで有頂天になった例が身近に起こったことを思いおこした。民進党の選挙である。詳しいことは省略するが。

全編を通じて東郷さんが言った名言が心に残っている。 
 <海戦では味方に落ちた砲弾しか分からないから当方の損害ばかりが強調される心理になる。実は敵にも損害を与えているはずなのにそれは見えない。その心理状態を克服した方が勝者になるのだ>
戦争ばかりでなく、あらゆる場面に通じる真理だと思う。
                           “09/06/12

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